the Aggressive Girl

「じゃあわかった人は手ェ上げてー」ライトが言った。
 旭ちゃんは挙げてるのかな。わたしは全然分からないけど。
「手を挙げたまま目ェあけていいよー」
 ゆっくり目を開けると、旭ちゃんのほかにもう一人が隣で手を挙げていた。
「りゅーすごぉーい!!」もう一人の分かった人、りゅーに巻きついてみる。
「あ、りゅー、正面の黒パツに嘘ついてもムダだからね」
「僕の髪茶色だし」旭ちゃんが苦笑いしてつぶやく。

「え・・・お化け見えんの?」引きつり気味でライトが聞く。『お化け』って言い方が子供みたい。
「僕はもちろん視えるけど・・・龍は?」
「視得るというより感じる。」なんて棒読みな台詞。
「ほかには?
 旭ちゃんはテレパスができるって言うけど。わたしたちの念は届くけど旭ちゃんからは来ないの」
 常々思っていた疑問を言ってみた。
 すると旭ちゃんは龍に向って笑いかけた。その瞬間、伏せていた龍の目が旭ちゃんを直視した。

the Abandoned Boy

“みんなが気づかないだけだよね”

 驚いた。頭の内側から声が響いてくる。鹿谷、今のは・・・。
“テレパス”返ってきた。さっきあいつが騒いでいたのはこのことか。
“初めてなんだ、龍”
 ああ。

the Aggressive Girl

 え・・・。あの二人通じてる・・・。うそ・・・。

「最初から通じるとは思ってなかったけど」
 旭ちゃんがにこにこといった。
「それ、やったことないからでしょ?」揚げ足とってみた。
「まあそうだけど。あ、ライト、二千円は?」旭ちゃんは無邪気に手を差し出す。ライトが引く。
「さ、三百円しかないよ。お年玉まで三週間もあるのに」うぅ。悲しすぎる。
「別にライトに二千円なんてあると思えなかったし。
僕もお金に困ってるわけじゃないから、本気で貰う気は無かったけどね」
 意地悪だねぇ。
「それでちゃんとみんなのクリスマスプレゼント買ってあるんでしょうね」
 じゃなきゃ困る。わたしの質問に対し、ライトは首を振った。
「あたしのせいじゃないからね」タマが言った。
 ライトはタマの工房で小遣い稼ぎのバイトをしているのだ。
「プレゼントがあるからちょっとオマケしてやったのに、あんた何買ったの」タマが続ける。
「うるさい!!なんでもいーじゃん!!」ライト…逆切れしなーい。

「いいよ、僕は十円ガムで」旭ちゃんが十円ガムなんて珍しい。
「兄様。そのような駄菓子は駄目です」はっきりした声。
 これが旭ちゃんの二歳下の弟、夕日。
「えーおいしいのに。僕は結構好きだよ」旭ちゃんが返す。
「ですがっ時期女王でおあすあれれ様の従者にもなってっ」
 ゆーひちゃんが必死になって返す。
「それのどこが偉いの。僕らはただの子供」そういう台詞が一番子供っぽくない。
 何でまあ、この二人の会話がかたっくるしいのかというと、旭ちゃんちは厳しくて、みんなゆーひちゃんみたいなキャラなの。
 で、どうして旭ちゃんだけがこんな自由人になったかというと、わたしが振り回しまくったからだというのは重々承知しております。でも悪い事だなんてこれっぽっちも思ってないよーん。えへ。

「上ばかり見てたら見えなくなるものはたくさんあるんだ」旭ちゃんは時々こうして不思議なことを言う。
 シックス・センスとやらなのか、こういうときの旭ちゃんの瞳は果てしなく広がる宇宙のようなものを映していて、怖い。
「そうなのですか」逆らえないゆーひちゃん。
「あ、こんな時間。僕はお先に失礼します。おやすみなさい」ゆーひちゃん。
「おやすみなさい」ゆーひが頭を下げてからドアをあけて帰っていった。
「じゃあお開きね。おやすみ」


 色々なゲームもあったし、色々頑張ったけどりゅーとは何ひとつ近づくことはできなかった。
 りゅーってばカラかたすぎ。


 広間に残っているのはもうわたしと旭ちゃんだけになっていた。
「あっ、旭ちゃん」何かを思い出したようにライトが駆け足で戻ってきた。

「明日また決闘つきあってよ」
「旭ちゃんって呼ばないで。また?もう嫌だよ。もっと強い人に頼んだら?」
 旭ちゃんがオーバー気味にうんざりした声を出した。
「やだっ。旭ちゃんが強くなればいいんじゃん」ライトがむくれる。
「だから旭ちゃんって呼ばないで。
第一ライトが負けると後が大変だから手加減してあげてるんだよ?」
 言い方はソフトで笑顔のままだけど旭ちゃんけっこう怒ってる。

 いつもの笑顔のせいなのか、ソフトな言い方のせいなのか、はたまたわたしのせいなのか、旭ちゃんはヘタレに見られることが多い。というかヘタレにしか見えない。

「オレそんなワガママじゃないし」ますますライトがむくれる。
「ふーん。じゃあ負けたからってすねたりいじけたりしないね?じゃ明日の朝6時にここで。おやすみ」
 旭ちゃんは実はプライドが高い。これはライト、痛い目に遭うじょ。

 

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