the Insightful Boy
朝6時。広間に着くと、ライトはまだ来ていなかった。約束の時間の筈なのに。
「ごめーん。寝坊した」五分経っていた。
「じゃ、始めようか」
僕とライトは広間の中心に向かい合うようにして立った。
「やほっ審判やるぅ」背後から声がした。あ、あれれちゃん?!
「めったに見られない旭ちゃんの本気見ようと思って」なんだ、ただのやじ馬か。
「じゃあっよーいはじめっ!」
あれれちゃんがステージの真ん中に腰掛けるといきなり試合が始まった。
「サンダーボルト120!!!」
ライトが雷玉を発射した。
呪文なんてのは、個々に区別するための名前で、自分の作った術なら名前なんて自己満なんだけど……。
やっぱりダサいなあ。と、思いつつ最小限の動きで身をかわす。120は真っ直ぐにしか飛べないのだ。
「サンダーボルト430!!!」
430は120よりも威力が大きい上に追尾できる。
「Headwind」
僕の手から展開されたかぜが綺麗な螺旋を描いて雷玉に命中し、風に押し戻された雷玉はライトに命中した。
一瞬の間があった。
カシャァ…ン。ガラスの割れる音がして、それからライトが宙を舞った。
ドンッ。
「旭ちゃんの勝ちぃ。…あれって旭ちゃんの本気?」
「まさか」
「なんだ。じゃあいつもの決闘ってどんな感じ?」
「適当に逃げ回って適当に当たって『負けちゃった(笑)』みたいな」
「あ―――っ!!」やっともぞもぞと起き上がったライトが叫んだ。
「どうしたの」
駆け寄った僕とあれれちゃんの声が綺麗にハモった。
「どうしよう…ペンダントが…」
ライトがいつも身につけていた稲妻形のペンダントヘッドが粉々になっていた。
「どうしよう…母ちゃんに怒られる…」
粉々になったペンダントの破片は、もう輝きが失せて、ただのガラスの破片になろうとしていた。
「早くお母さんに連絡なさい。あとかけらは全部残らず拾って」
あれれちゃんの判断は素早かった。そして威厳をも感じさせる凛とした声だった。なんかとても感動してしまった。
「う……うん。もしもし、母ちゃん」
ライトはいつもと違うあれれちゃんに驚き、圧倒されながらもすぐに電話をかけた。
お母さんとはすぐに繋がったようだ。
『馬・鹿・モ・ノ!!!』
電話ごしにライトのお母さんの怒鳴り声が聞こえた。
破片を集めていた僕とあれれちゃんは思わず吹き出してしまった。あとは何を叫んでいるのか判らないけど、ライトがどんどん青ざめていくのでかなり絞られてるんだろうなと思った。
ライトはかなりちいさくなって電話を切った。
「今日中に直し方のFAX送るから自分で直せ、だって」
ものすごく暗い声でライトが言った。
ライトの家は代々魔法具の工房をやっていて、ライトは跡継ぎ息子だった。
ライトのペンダントも魔法具の一つ、人口魔法輝石を使ってつくられている。だからライトのお母さんはライトの修行にこのペンダントを利用しようとしているのだ。
the Aggressive Girl
一区の外に繋がるFAXや据え置きの電話はわたしと旭ちゃん、そしてはなさんとりゅーが住むこの建物にしかない。
だからFAXを待ちながらライトも一緒に朝ごはんを食べることにした。
the Abandoned Boy
朝8時過ぎ。朝起きてから今まで何もしていなかった。
12月も半ばだというのに、窓から入る風と陽が心地よかったからだ。
猫宮が電話で朝ごはん朝ごはんと五月蝿いから今着替えてやっている。
the Aggressive Girl
ダイニングに、やっとりゅーが入ってきた。
「……。」
無言で入って来るのかよ。『おはよー』とか、ないの?もう。
私はりゅーの姿をもう一度まじまじと見た。
「?!なにその格好!りゅー、寒くないの?」
りゅーは七分丈で襟開きの広いVネックのTシャツとジーンズという、普通なら十月前半の格好をしていた。
「…別に。」
「かぜひくよ?」
「ひかない。」わたしはりゅーを心配してやってんのに、まったく。
そういえば、はなさんがいない。
「あれ、はなさんは?」
「知るか。」
ピリリリリリリ。ちょうどその時、りゅーの携帯が鳴った。
「はい。」
相手は何か焦ったようにしゃべっていた。
「だれ?」とわたしが訊くと、
「かわれ。」りゅーが携帯をわたしに押しつけた。命令形が超ムカツク。
「もしもし」
『あっ、あれれちゃん?どうしよう、迷った〜』はなさんだ。すでに涙声。
そうゆうことか。りゅーはまだこの建物をよく知らないから。
「えー…、何が近くにあるの?」
『んーと、んーと、ドア』
およ?!選択肢広すぎだよお…。
「なんのドア?開けてみて」
『なかには何もないわ』
うわー。この建物は使ってないというか、よく分からない隠し部屋が多い。
だから何にも選択肢はせまくならない。
「どうしよう。はなさん迷子だって」わたしは旭ちゃんとライトに言った。
「え…そういえばGPSがあったよね。この携帯」旭ちゃんはすばやかった。
ぱくんと自分の携帯を開くとはなさんの携帯の居場所をけんさくする。
「あはは、ココはココだって」やじるしはこの建物を指していた。
「なあんだ。じゃ、3人で探してくるからりゅーはここで待ってて」
「わたしはこっちに行くから、旭ちゃんはあっち。ライトはそっち」
わたしがこう言うと、わたしふくめ3人は走りだした。