the Abandoned Boy

 一区内のスピーカーから緊急放送が入った。
「一区内の皆さぁぁぁん。至急講堂に集まってくださぁぁぁい!」
 何とも気の抜けた声だ。つ―かムダに元気。

 あ、説明しておく。一区とは、第一魔術学校の学区という区域の略だ。
 そして、今日から俺と姉貴はここで暮らすことになった。

the Aggressive Girl

 わたし、猫宮あれれがこっちに来てもうすぐニヶ月。ココのリーダーの仕事にもまあまあ慣れてきた。
 今日、初めてやる仕事は、転入生の紹介。
 はりきっていくよー!!私の中のハイテンションスイッチをマックスにする。そしてマイクを左手に、右手は転入生に向けて、勢いよくひろげて叫んだ。
「きょーから新しくここに入る人達でぇーす!名前は水上華さんと水上龍君どぇーす!」

 私の右隣には、めちゃくちゃ長い髪をポニーテールにした眼鏡ちゃんと、男の子にしては長すぎる髪を右横に結ったミスター・ポーカーフェイスが立っている。

「み、み、水上華です。よ、よろしこ願いします」
 眼鏡ちゃんが思いっきり頭を下げたもんだから髪ん毛がムチのように襲いかかってきた。ひゃぁっ。  
 恐っえー・・・。名前決めた。はなさん。緊張してんのね。はなさん。
「水上龍です。よろしく」こっちは全然緊張してない。つーか抑揚無さすぎ。つまんないの。
 よし。名前決めた。りゅー。

 そーだ。説明を忘れておった。
「えーっと、華さんは高等部三年に、りゅーは中等部二年にきょーから入りぁす」

the Insightful Boy

 僕、鹿谷旭。この前あれれちゃんに引き継いだばっかで、うまくいけるのかなーってちょっと心配だったんだけど、すごいや。何であんなにフレンドリーに出来るんだろ。・・・ちゃん付けにされてないのがちょっと羨ましかったりするんだけど。

 それより、あのりゅうって子、気になる。何だかかわいそう。ものすごく傷付き過ぎてすさんだ目をしてる。大丈夫かなぁ。

「りゅーの目は弱視なので文字読めないけど馬鹿にしないでね!」
 あれれちゃんの説明が終わった。

the Abandoned Boy

 そう。俺、水上龍は目が殆ど見えてない。何がどこにあるかとか気配で分かるから日常生活には困らない。分かるから、誰も信じてくれない。
 文字が分からないのは頭が悪いからだと決めつけられて、馬鹿にされて、生きてきた。
 絶対ここでも嘘だと言われる。俺は誰も信じない。
 しんじられない。

 皆が帰ってゆく。しあわせな人種のしあわせなおしゃべりが新参者を避けて遠ざかってゆく。
 しあわせなおしゃべりの隙間から、猫宮のあほ声が近づいてくる。
「りゅー!はーなーさーん!!部屋まで案内するから来てえ!」
 うざいけど、このままつっ立ってるのも嫌なのでついてってやった。

 いくつもの階段を上り、いくつもの廊下を渡った。
 先に着いたのは、姉貴の部屋だった。あいつが一人で外に出られるのか。方向オンチのくせに。
 猫宮は姉貴に携帯をわたすと、また歩き出した。

 まだ歩く。まだ上る。

 最上階のいちばん北の角部屋にたどりつくと猫宮の足が止まった。


「りゅーの部屋はここ」猫宮はそう言うと、一緒に入ってきた。
 そして、俺のベッドに座ると、隣に座れ、と言った。少し離れて俺が座ると、寄ってきた。なんだこいつ。

the Aggressive Girl

 私は別に、男の子に色目使ったわけじゃない。ただ、気になっただけ。
 りゅーがここになじむまいと一人でいる理由が。
「天窓がついてるの。りゅー、外の空気すきかなぁって思って」普通の話題からせめてみた。
 いやな沈黙がながれる。
「答えてよー」甘えてみる。
「いつまでここに座ってんだ。帰れ」
 ふいに、りゅ―に怒られた。ちょっとショック。
「じゃあ。ケータイ。バイバイっ」ちょっと乱暴にドアを閉めた。
 なんなのよ。意味わかんない。馬鹿みたいに見えるじゃんっ。わたし。

 廊下に出たら、あさひちゃんがいた。
「これは下で話そう」あさひちゃんが言った。これって何よ。あさひちゃんまで意味わかんない。

 旭ちゃんはダイニングに着くと、私の席の目の前に座った。
 そこ、旭ちゃんの席じゃない。そう思いながら私も着席した。
 おもむろに旭ちゃんが口をひらいた。旭ちゃんの顔は、いつもの弱々しい顔じゃなくて、真剣な顔だった。
「龍、前、何かあったんじゃないのかな」
「何かって何よ」
「たとえば・・・いじめとか」
 ようやく意味がわかった。
「目がすさんでた。だから・・・他人が怖いんじゃないのかなって思って」
 こういうときの旭ちゃんはすごい。人の感情やかかえているものをズバリといいあてる。そんなときの旭ちゃんの目は恐いくらい鋭い。
「そっか。だからここにうちとけようとしないんだ」
「ちがう。うちとけられないの」
「じゃあ、さっき怒って出てきたの、間違いだったりするのかなぁ?」
「間違い」
 即答された。旭ちゃんにまで怒られた。
「じゃあじゃあっ。どうしたらうちとけてくれるのかな??」苦しまぎれの質問。
「がんばろう。みんなで。でも、こういうのが一番上手いのはあれれちゃんだから。
あれれちゃんしか出来ないんだから。僕は帰るね。ばいばい。」
 
 ひとり取り残された。私にしか出来ないことって何?

the Insightful Boy

 僕はあれれちゃんと幼なじみであれれちゃんのことは何でも知ってる。
 あれれちゃんの特技は明るくて誰にでも人なつっこくて人の心を開けること。   
 本人は全然分かってないけど。さっき言ったことも分かってないかも。
 でもきっとやってくれるさ。あれれちゃんだもの。

 

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