クリーム
躊躇いもなく目の前にある扉を開く
鼻腔をくすぐる甘い香りが一瞬にして広がる
足の向く先は勿論台所
出来るだけ音をたてないようにして歩く
台所を覗くと探していた黒のエプロンを身につけた長身の男がいた
「ギル!」
彼の名を呼ぶと同時に後ろから抱きついた
その拍子に抱きつかれた彼は声にならない叫びをあげつつ、手に力が入ってしまったようだ
「オズ!お前、急に何するんだ!」
その手元には甘い香りの正体であるクリームが盛られたケーキがあった
抱きついた拍子にだろう、クリームを絞っていた部分の形が崩れている
「わーっ美味しそう!」
「お前なぁ…」
人差し指で崩れた部分のクリームをすくい取り、舌を出して少しだけ舐めた
「でも、ギルはオレの為に作ってくれたんだよね?」
まだ指に残ったクリームは舐めさせるようにギルバートの口の中へ強引に入れる
唐突の事に指の侵入を許してしまった唇
「ありがとうね」
指をわざと舌で拭い 口腔から抜き出す
状況に理解しているのかいないのか、顔を紅くした彼ににっこりと微笑み 少し顔を近づけて言う
「向こうで待ってるから、出来たら呼んでね」
あと数分で完成であろうケーキに背を向ける
まだ温かく濡れた指は背中で組んで少し冷えた廊下に出た